花とウォーキングシューズ

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心のお薬のようなチェコの小説

寒く、夜が長くなりました。

本を普段読まなくなった私も、たまには手に取る気分に。

題名にはちょっと引きますが、私の一番の愛読書です。何年もかけてゆっくり読んでいます。5年目で半分ほど。

紙がボロボロになってしまった。

文庫なので字が小さいのが難点ですが、赤毛のアンシリーズが好きな人になら、きっと好まれると思います。

 

まだ貴族が土地を治めているような、長いドレスを人々が来ていたような古い時代の話です。

19世紀半ばに書かれています。

内容はその当時のチェコの庶民の生活が綴られているだけと言われればそれだけなのですが、とても味わいがあって、心の中が暖まります。

チェコの歴史は厳しかったので、人々の、特に年長者の知恵が生半可ではない気がします。

慎み深いというのか、生き方が慎重で丁寧。

生活の中で長い年月培って熟成された人々のものの考え方が、地に足がついているというのか、切実というのか、しみじみと伝わってきます。

習俗の記述も面白く、心が落ち着きます。

 

今の社会は新しいものがどんどん増えてしまって、くるくると目まぐるしく生き方を変えていかなくてはなりませんが、そうではなかった時代の味わいはまた格別だなあと思います。

なんというか、日本の時代小説のように、道徳の枠がきっちりと定まっていて、善悪の区別がはっきりしています。

そこに緩みがない。

今でも良いことをすれば良い結果があり、悪いことに流れれば悪い結果がもたらされることに違いはないのでしょうが、昔の時代はどこにも逃げ場がないので、その結果が来るのがとても速いような気がします。

今の日本も実は逃げ場なんてないのでしょうが、いろんな仕掛けがあって、複雑で混乱してしまう感じがします。

 

ただ、チェコは日本の江戸時代と違って、外国と地続きですので、閉じられた世界という感じはしません。

生活を愛しながらも、常に変化に対する緊張感が漂っている感じがします。

その覚悟と諦観は持ち前の物かな。

そこに言うに言われぬ哀しみもあるような気がします。

 

いやなんでこの本を愛読しているのかというと、病気で苦しかった時に一番お薬になったものだからです。

人々への愛がとても深い本です。

奇をてらったところはどこにもありません。

時間のある人ではないと読むの難しいでしょうが。

銅板画のような挿絵も気に入っています。