母の手袋

 引き出しの母の手袋 香り出す

 

この手袋に古い カビ臭い匂いを感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、どうかここは匂い袋か香水の匂いと想像してください。

私たち 子供(かつての)が物心ついた頃からおしゃれとはあまり 縁のなかった年取った母ですが、散らかった家の中の割には物を大事にしてるので、ちょっと 私がいたずら心を起こして、古い箪笥を開けたりすると、引き出しの中には、今ではあまりないような飾りのついた小さな手袋がきちんとしまわれて見つかったりします。安物ですがレースだったり 紅色のような赤だったり。こういったものを母は若い頃 実際に手にはめたこともあったのだなと思うと、なんとなく母のいつもの顔の仮面を引き剥がして、素の姿を覗いてしまったようで、ドキッとしたり少し恥ずかしくなったりします。

誰しも若くていろんな夢を見ることがあったもの。

甘い想いも苦い思いもいっぱいしたことでしょう。

そんな若い頃の感情を閉じ込めたような古い手袋。

知り合いのいない 新しい土地で父と二人になり、子供が立て続けにできたために、一人一人の子供に十分に手をかけられなかった母。そもそも家事よりも働くことが向いていた人で、子育てが実に下手なのでしたが、不器用でも愛情だけは本物だったと、最近 つくづく思います。

可愛い人が必死になって生きてたんだなぁと思います。

病気なんかしてごめんなさいでしたが、まあめちゃくちゃな家でしたからね。

それにしてもここまで回復したのは母の必死のおかげです。ありがたいです。

私がひどい時は 母も生きた心地はしなかったでしょうと思います。

親不孝の極みなんでした。実際。

いやまあこの世にいるだけましかも。

これからでも良い人間になりたいとつくづく。。